
ピットの清掃員『ヴァーガス・ド・デニス』
は
目の前にいる冒険者に静かに話しかける。
「いやはや、困ったことになりました」
その声は、
その言葉とは裏腹に非常に落ち着いている。
「我々ハウス・デニスが建設を依頼し管理しております
"ピット"を視察するため、
設計・建設したハウス・カニス
のお偉方が、
近日中にこのストーム・リーチ
を訪れるそうです。
ピットに関してはハウス・カニスでも、
"ライトニングレイル"
までとはいかないものの、
非常に優秀な施設として評判が高いそうで、
ハウス・デニス
での成功を機に、
他のハウスにも売り込もうとしているとの事です。
そのための視察だと」
何が困ったことなのかまだつかめない冒険者に、
尚も落ち着いた口調で、清掃員は続ける。
「これが何を意味するか、
賢いあなたならお分かりでしょう。
お分かりでない?
」
やれやれといった、表情。
ハウス・デニス
の一員でなければ、
軽くのしてやりたいところだ。
「現在ピット内部では、
強烈な匂いを放つあの忌々しい
トログロダイト
たちが住み着いております。
このまま
視察団が訪れますと、
ハウス・デニスの管理業務に
怠慢がある
と思われても
おかしくない状況なのです」
少しずつ、状況がつかめてくる。
「それは、ハウス・デニスとハウス・カニスの関係に
亀裂を入れかねないという事です」
突然、清掃員は絶叫
する!
「あぁ! なんたること!
約2500年続いた両氏族の関係に、
こんなところでピリオドを打つことになるとは!!
なんと嘆かわしいことでしょう!!」
圧倒される冒険者を横目に、
その演劇じみた口調での話は続く。
「それだけは!
それだけは、
なんとしても避けなければいけないのです!!」
一時の間……、
次に清掃員が口を開いた時には、
その演劇は幕を閉じていた。
「と、いうことです。
一刻も早く解決しなければならない理由、
お分かりですよね
」
有無を言わせず、
冒険者へメモを手渡す。
「このメモと、
あなたのバッグに入れさせていただきましたマニュアル
を読んで、
ピットで起きている忌々しい事態を早急に解決してください
」
冒険者が読み終えぬうちに、
清掃員は話を続ける。
「ハウス・カニス
にこの事態を知られては、
意味ありませんので、
目立たぬよう、
すばやくお願いいたします」
冒険者はピットの重厚な入り口を持ち上げる。