【双魂の盟約】
4万年前。
かつてゼンドリック大陸に栄えた巨人王国・・・
ジャイアントホールドは、その首都であった。
要塞ジャイアントホールド・トオーの守護のもと、
ジャイアントホールドの巨人たちは
強き魔法を学び、
恐るべき兵士たちを鍛え、
素晴らしい芸術を生みだした。
だが、ジャイアントホールドは
アルゴネッセンのドラゴンたちに滅ばされてしまった。
彼らドラゴンたちだけが、
この事を非常によく憶えている。
また、ドラゴンの歴史家たちは、
巨人たちがドラゴンから教わった魔法の秘儀を
誤って用いたために、
彼ら自身の衰退を招いたのだと考えてもいる。
このことは事実である。
・・・が、真実の一部分にしかすぎない。
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ストームリーヴァー
彼は凄惨な対ダル・クォール戦争における英雄である。
戦争で窮地に陥った彼は、
最も強き盟友であるオールド・ドラゴンの元に退いた。
このドラゴンの真の名前を知る者はいないが、
その誠実な振る舞いにより、
「トラストフル・ワン―偽りなき者」と呼ばれていた。
ストームリーヴァーは、
生の黄昏時を迎え死に近づいていたトラストフル・ワンと共に、
一つの盟約を築いた。
その盟約にはこう書かれた。
”我ら共に、
その命を極大魔法リーヴァーズ・ベーンの為に捧ぐ。
この魔力を以ち、
ゼンドリック大陸全てを
クォリに抗する力と転ずる”と。

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トラストフル・ワンは心中で、
盟約を結んだことを悔いていた。
彼は巨人たちを下等な種族、
残された僅かな生を捧げるにさえ値しない
卑しい種族だと見なしていたのだ。
後悔は恨みに満ちた怒りへと変わり、
ついには彼に破滅的な決意をさせるに至らしめた。
極大呪文リーヴァーズ・ベーンの詠唱が始まった時、
彼は呪文を正しく唱えるため自身を生贄に捧げる代わりに、
彼の肉体だけを生贄に捧げた。
トラストフル・ワンは、そうした後で、
彼の魂を捧げる代わりに、
他のドラゴンの死骸を生贄としたのだ。
ストームリーヴァーは死んだが、
トラストフル・ワンはドラコリッチとなり”生き延びた”
※ドラコリッチ…
強大な魔法を操るドラゴンが
リッチ(高位アンデッド)化した存在。
非常に強力なクリーチャーである。
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トラストフル・ワンの魂は闇へと堕落し、
その闇の側面は
リーヴァーズ・ベーンにも影響を及ぼしてしまった。
呪文は成功し、クォリを滅ぼすことはできたものの、
同時にゼンドリック大陸の魔力の流れが汚染されたのだ。
その後3000年に渡って、
呪いと災厄がゼンドリック全域を襲った。
ドラゴンたちは、
巨人たちが正しくリーヴァーズ・ベーンを唱えることに
失敗したのだと非難をし、
巨人たちは、
ドラゴンたちが呪文を唱えることに協力したにも関わらず、
それによる被害の復興を助けないことを非難した。

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ドラゴンたちと巨人たちの関係は悪化する一方であった。
折り悪しくも、
ドラウエルフが主人である巨人たちに反旗を翻した。
巨人たちは徐々にゼンドリックの各地にある
彼らの要塞の中から追いやられ、
ついにはジャイアントホールドへと撤退することとなった。
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このような経緯があるからこそ・・・
いつの日にかストームリーヴァーが
トラストフル・ワンに盟約を守らせるために戻ってくる、
そう考えられているのではないだろうか。
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長い年月の後、
永きにわたって忘れられていた巨人族のソーサラー
――彼はトラストフル・ワンによって堕落させられていた――が、
ドラウたちを一掃するために、
再びリーヴァーズ・ベーンを発動させようと試みた。
ドラゴンたちは、それを許さず、
恐ろしい呪いをジャイアントホールドに施した。
これにより、巨人たちの最後の棲み処の幕は閉じ、
そして、トラストフル・ワンの
巨人族に対する狂気じみた嫌悪感は満ち足りることとなった。
いまやトラストフル・ワンは、
ゼンドリック大陸にアンデッドドラゴンによる
国家を打ち立てることを夢見ている。
その高みに至る道筋を確かなものとするために、
アルゴネッセンのドラゴンたちを利用しようとしているのだ。
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ジャイアントホールドの廃墟は
魔法的に汚染され荒廃した土地となっている。
ジャイアントホールド・トオーは
未だに砕けた地形の上に不気味な姿を垣間見えさせており、
その独自の建築様式の跡だけが残っている。
一帯には、モンスターの集落が散在している。
その中でも最も強力な者どもは、
地下の廃墟を切り開き、住処としている。

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ジャイアントホールドは、最近になって
英雄ストームリーヴァーを信奉する
モンスターの一軍によって占拠された。
彼がこの地に戻り、
偉大な勝利を納めることを待ち望んでいるのだという。
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【嵐は集いて】
:稲妻海−サンダー・シーにて
正午過ぎのことである。
サンダー・シーは奇妙な静けさに包まれていた。
このゼンドリック大陸と
コーヴェア大陸を結ぶ大洋は、
恒常的に荒れ狂う嵐の通り道となっているのだが、
この時ばかりは、雲間が現れ、
陽光が穏やかなさざ波を照らしていた。
突然に。
それは、まるで
神々がスイッチを切り替えたかのようであった。
急激な高波が天まで届くかのように沸き立ち、
そして、深く黒い嵐雲が、
ほんの少し前までは光に満ちていた情景を闇に染めた。
稲妻と雷光が天を荒々しく、バラバラに引き裂く。
海表が砕け開き、
大渦から徐々に何者かの姿が隆起してくる。
嵐の猛烈さは、いよいよもって増していき、
その様はまるで、巨大なクリーチャーが
ゼンドリックの岸壁を目指し道行くかのようであった。
ストームリーヴァーが還ってきたのだ。

:ストームリーチにて
バロウ・ド・クンダラクは、
かぶりを振って溜息をついた。
”例の金庫”の件を片づけてしまうのに
何か月もかかってしまった。
この金庫は依然として安全であり、
口座を解約するのはばかげている、
と、顧客たちに説得するのには
さらに多くの時間がかかってしまった。
結局彼には、この時間の浪費に
価値があるとは思えなかった。
件の赤毛の女が何を見つけていようが、
それは共に闇に葬られたのだ。
シベイ・ドラゴンシャードは粉々に砕かれた。
彼は、ドラゴンたちが、
シベイ・ドラゴンシャードから
過去と未来を読み取ろうとしていたことを知っており、
おそらくは、”例の金庫”の中にあるものは
砕けて無価値になってしまったのだろうと考えたのだった。
しかしながら、いまだに、
彼の良心の背後に、何がしかの懸念があった。
仕事とドラゴンに関する事件の秘密を維持することは
うまくやりおおせたものの、
その過程で、もしかしたら・・・
より禍々しい悪へのお膳立てを
整えてしまったのではないのだろうか・・・
:メネチャタラン砂漠にて
ウィンドラッシャー・キャニオンの深部にて、
ボウマスター・ヤガは、次なる矢を射った。
「間抜けな冒険者野郎が」
と、彼はひとりごちた。
「わざわざストームリーチくんだりから、
俺様のねぐらにお宝探しにくるとはな」
弓の弦がうなり、
放たれた矢が弧を描き、静かに岩間に吸い込まれる。
と、悲鳴があがり、
この弓の名人は満足げにほくそえんだ。
彼らの相手をするのは、
もうこれくらいでいいだろう。
天幕張りのねぐらに戻ると、
驚いたことに、一人のドワーフが彼を待っていた。
訪問者は、ゆっくりと腰を落ち着けながら話しはじめた。
話を聞き、
その男の語ることの意味するところを理解したヤガは、
ざんぎり歯をにぃっと緩ませ、笑みをうかべた。
ねぐらの外に出た彼が素早く鳴らした咆哮に、
遠吠えが続く。
「ねぐらをたたんで出発するぞ!
力とお宝が俺たちを待っているぞ!」
:アルゴネッセン大陸にて
ここは、”失われた魂の海”の向こう側・・・
チャンバー(議会)に所属している
一匹のヤング・アダルト・ブルードラゴン(※1)
が、
シベイ・ドラゴンシャードを熱心に研究していた。
彼女は、”竜の予言”の中でも
とりわけ困難な箇所に関しての解読を進めていた。
何万年もの昔、
ゼンドリック大陸に栄えた巨人の帝国に
偉大な英雄が現れ、
ダル・クォールの侵略を退けた。
予言は、その英雄が戻ってくることを示唆しているが、
どのように戻ってくるのか、
という点については謎のままであった。
長老たちでさえ、
この伝説の英雄の復活が
どのような意味をもつのかわかりかねている。
はたしてよいことなのか、悪いことなのか・・・
わかっていることといえば、
それにより、
何かとてつもないことが
起こるであろうということのみである。
ブルードラゴンたちの指導者である
強力なアダルト・レッドドラゴンは、
預言についてより深く理解し、
ストームリーヴァーについてより多くのことがらを調べるため、
何か月も前にゼンドリック大陸へと発った。
指導者は、
死すべきさだめの者どもの金庫に保管されている
いくつかの重要なドラゴンシャードから、
求めている答えを得られるかもしれない、
と語っていた。
この年経たレッドドラゴンがいない間、
件のブルードラゴンは
チャンバーから与えられたシャードの研究を続けた。
全ての謎を解き明かす可能性を秘めた
小さな見落としが見つかるのではないか、
という希望を持ちながら。
だが、それらの
シベイの輪から落ちてきたシャードからは
何の答もみつけることができず、
彼女の試みは無駄に終わった。
指導者から最後の便りがあった時から、数週間後。
情報を得るために、
ゼンドリック大陸と、
そしてストームリーチの街を
斥候たちが調査していた。
手始めに得られた知らせは恐るべきものだった。
長老たちからの達しが下り、
このブルードラゴンは、
公式にストームリーチへと遣わされた。
※1…ヤング・アダルトというのは、ドラゴンの年齢段階の1つであり、
ジュブナイルより年経ており、アダルトには至っていない
51〜100歳のドラゴンであることを表す。
:ソアリング・アティアフ号にて
ゼルチは遠眼鏡を折りたたみ、
ノートにメモを書きつけた。
また新たな一団が移動をしていた。
この一週間で、
トロールたち、
ホブゴブリンたち、
オーガたち、
オークたち、
そして今度のノールたち、
都合、合計で6つの集団が移動するのを
確認したことになる。
はるか南の空に不吉な嵐雲が集い、
黒く染まっていた。
空からの監視員は、
この異常な天候についてのメモを書いてから、
窓の日よけをおろした。
レストレス諸島につくまでの間、
数時間眠っておきたかったのだ。

:ジャイアントホールドにて
クラグは、”トオー”を一瞥した。
彼には、軍の活動拠点として守られている
この巨人要塞に入るための許可を下すことのできる
地位が与えられていた。
毎日やってくるいくつもの新しい集団と生き物たちのおかげで、
その仕事は大変に忙しいものではあったが、
彼はそれを大変に効率よくこなした。
まだ彼が”巨搭”の中に入ったことがなかったころ、
塔の頂と夜闇の間から鳴り響いてくる、
血も凍るような叫びと恐ろしい咆哮とが、
大地を激しく揺り動かす音を何度も聞いたことがあった。
この拠点のそこかしこで、
あの伝説が戻ってきた、
永く忘れられていた3つの卵が孵った、
などといったの噂が流れている。
そのような物を見たことがないので、
クラグには噂が何を言っているのかがわからなかった。
彼が知っていることと言えば、
ジャイアントホールド・トオー内に、
ある巨大な力が集まり、成長している、
ということだけだった。
そう遠くないうちに、あの力は解き放たれるだろうし、
そうなった暁には彼は喜んでその力に尽くすことだろう。
:ストームリーチ・ハーバーにて
シドニーは小舟から飛び下りて、
濡れていない地面に戻ってこれたことを喜んだ。
彼女は深呼吸をし、
心底くつろいだ気分になっていた。
というのも、海の旅で激しい船酔いにかかり、
すっかりまいっていたからだ。
マーケットプレイスへ向かった彼女は、
とある屋主のいなくなっていた店を使い、
商売を始めた。
もうすぐ”農民の市”が開かれるはずだ。
そうなればきっと、
お客たちが彼女が知りたがっているモノを
教えてくれることだろう。
お客たち、つまり、冒険者たちのことだが、
彼らは一般に、市場で様々な調査活動をするものだ。
おそらく彼らは色んな情報を持っていることだろう。
それに・・・もしかしたら
多少の荒事をこなす気も
持ち合わせているかもしれない。

昼食をとってからまもなくして、
ハウス・オライエンからの使いがやってきた。
その使いの男は、
「あのお方から、
あなたがここにいるだろうと申しつけられ参上いたしました」
と言い、
彼女に封印がされた速達便を渡し、
そして、群衆の中に姿を消した。
封印の蝋に刻まれた印に彼女はすぐさま気づき、
その手紙を開けた。
羊皮紙には、ただ一つの言葉だけが記されていた。
”ジャイアントホールド”と。